負圧養生とは
アスベスト除去作業中、作業エリアを外部より低い気圧(負圧)に保ち、アスベスト繊維の漏洩を防ぐ措置です。レベル1(吹付けアスベスト)およびレベル2(アスベスト含有保温材等)の除去工事では、石綿障害予防規則により負圧養生の実施が義務付けられています。
負圧養生は、作業エリア内の気圧を周囲より低く保つことで、万が一隔離シートに破損や隙間があったとしても、空気の流れが常に外部から内部へ向かうため、アスベスト繊維が外部に漏れ出すことを防ぐ仕組みです。
⚠ 重要な注意事項
負圧養生の実施が不適切な場合、大気汚染防止法違反で罰則(3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となります。また、作業員や周辺住民の健康被害につながるリスクもあります。
法的要件と基準
適用される法規制
- 石綿障害予防規則:作業員の健康保護の観点から負圧養生を義務付け
- 大気汚染防止法:周辺環境への飛散防止の観点から隔離措置を義務付け
- 労働安全衛生法:作業計画の作成と事前届出を義務付け
負圧の基準値
作業エリア内は、外部に対して-2Pa(パスカル)以上の負圧を常時維持する必要があります。これは、隔離エリアの気圧が、周囲の気圧より2Pa以上低い状態を意味します。
| 項目 | 基準値 | 測定頻度 |
|---|---|---|
| 負圧値 | -2Pa以上(外部との差圧) | 作業中は常時監視 |
| 換気回数 | 4回/時間以上 | 装置設置時に計算確認 |
| 漏洩検査 | 目視確認可能なレベル | 隔離設置時、作業開始前、1日1回以上 |
隔離措置の詳細手順
STEP1:作業エリアの隔離(養生シート施工)
作業エリアを完全に密閉するため、厚さ0.08mm以上のプラスチックシートを使用します。シートは天井、壁、床のすべてを覆い、隙間なく密閉する必要があります。
- シート材質:ポリエチレンシート(厚さ0.08mm以上推奨)
- 接合方法:粘着テープで幅5cm以上重ね貼り、または溶着
- 固定方法:木枠や鋼材を使用し、物理的に固定
- 開口部:窓・ドアは完全に封鎖、必要な出入口のみ前室を設置
STEP2:セキュリティゾーン(前室)の設置
作業エリアと外部の間には、3段階の前室(セキュリティゾーン)を設置することが推奨されています。これにより、作業員の出入りや資材の搬出入時にアスベスト繊維が外部に漏れ出すリスクを最小化します。
セキュリティゾーンの構成
- 第1室(作業室側):汚染された保護具を脱ぐエリア
- 第2室(洗身室):シャワーで身体を洗浄するエリア
- 第3室(更衣室):清浄な衣服に着替えるエリア
STEP3:負圧除じん装置の設置
隔離エリア内の空気を強制的に排出し、負圧を作り出すための装置を設置します。
- フィルター:HEPAフィルター(捕集率99.97%以上)を装備
- 設置台数:作業エリアの容積に応じて決定
- 予備機:故障時に備えて予備機を1台以上用意
- 排気位置:周辺への影響を考慮し、適切な高さ・方向に排気
風量の計算方法
負圧除じん装置は、1時間あたり4回以上の換気が可能な風量が必要です。
必要風量の計算式
必要風量(m³/分)= 作業エリア容積(m³)× 4回/時間 ÷ 60分
例:容積200m³の部屋の場合
200m³ × 4 ÷ 60 = 13.3m³/分 の風量が必要
STEP4:負圧の確認と維持
負圧除じん装置を稼働させた後、負圧計(マノメーター)を使用して-2Pa以上の負圧が維持されていることを確認します。作業中は常時負圧計で監視し、基準値を下回った場合は直ちに作業を中断します。
STEP5:漏洩検査(スモークテスト)
隔離が完全に機能しているかを確認するため、スモークテスター(煙発生装置)を使用した漏洩検査を実施します。
- 実施タイミング:隔離完成時、作業開始前、作業中は1日1回以上
- 検査方法:スモークを隔離エリア内に充満させ、外部から煙の漏れがないか目視確認
- 判定基準:目視で確認できる煙の漏れがないこと
- 記録:検査結果は写真・動画を含め記録・保管
負圧養生の費用
| 項目 | 費用目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 養生シート材料費 | 5〜15万円 | 作業エリアの広さによる |
| 負圧除じん装置(レンタル) | 1台10〜20万円/月 | 予備機含め2台以上必要な場合も |
| 前室設置費用 | 10〜30万円 | シャワー設備含む |
| 負圧計・測定器具 | 5〜10万円 | 購入またはレンタル |
| 施工人件費 | 20〜50万円 | 設置・撤去含む |
| 合計 | 50〜120万円 | 小〜中規模工事の場合 |
大規模な工事(工場・体育館等)では、200万円以上かかることもあります。
よくあるトラブルと対策
1. 負圧が維持できない
原因:隔離シートの破損・隙間、負圧除じん装置の能力不足
対策:スモークテストで漏洩箇所を特定し補修。装置の追加設置を検討。
2. 負圧除じん装置の故障
原因:フィルターの目詰まり、機械的故障
対策:定期的なフィルター交換。予備機を常に準備。
3. セキュリティゾーンの汚染
原因:作業員の手順不順守、洗浄不十分
対策:作業員への教育徹底。洗身手順の掲示と監督。
隔離解除時の手順
アスベスト除去作業が完了した後、隔離を解除する前に以下の手順を踏む必要があります。
- 残存アスベストの確認:目視で除去漏れがないか確認
- 清掃:HEPAフィルター付き掃除機と濡れ雑巾で清掃
- 作業環境測定:空気中のアスベスト濃度を測定(0.15本/cm³以下を確認)
- 検査員による確認:第三者(発注者や監督官庁)による確認
- 養生撤去:シートを内側に折りたたみながら丁寧に撤去
- 最終清掃:作業エリア全体の清掃
⚠ 隔離解除の注意点
作業環境測定で基準値を超えた場合、隔離は解除できません。再度清掃・測定を実施し、基準値以下になるまで繰り返します。
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よくある質問
Q負圧養生はレベル3でも必要ですか?
レベル3(非飛散性)の除去では、原則として負圧養生は不要です。ただし、湿潤化や飛散防止措置は必要です。
Q負圧養生の費用はどのくらいですか?
規模によりますが、50〜100万円程度が目安です。大規模な場合は200万円以上かかることもあります。