報告義務の対象となる工事
アスベスト事前調査は原則全ての工事で必要ですが、労働基準監督署や自治体への「報告」が必要なのは、一定規模以上の工事です。
| 工事種類 | 報告が必要な規模 | 面積・金額の計算方法 |
|---|---|---|
| 解体工事 | 解体部分の床面積の合計が80㎡以上 | 実際に解体する部分の床面積の合計(延べ床面積ではない) |
| 改修(リフォーム)工事 | 請負代金の合計額が100万円以上(税込) | 材料費、労務費、諸経費を含む工事全体の請負金額 |
この条件に当てはまる場合、原則として「石綿事前調査結果報告システム」による電子申請が義務となります。報告期限は工事着手の前日までです。
報告義務の判断例
報告が必要なケース
- 戸建て住宅(延べ床面積100㎡)の全面解体 → 床面積100㎡なので報告必要
- マンションの一住戸(60㎡)のフルリフォーム(請負金額150万円)→ 100万円以上なので報告必要
- 店舗の内装工事(面積50㎡、請負金額120万円)→ 100万円以上なので報告必要
- ビルの一部解体(解体部分90㎡)→ 80㎡以上なので報告必要
報告が不要なケース(ただし調査は必要)
- 物置の解体(床面積15㎡)→ 80㎡未満なので報告不要
- 浴室のリフォーム(請負金額80万円)→ 100万円未満なので報告不要
- 外壁塗装のみ(請負金額90万円)→ 100万円未満なので報告不要(ただし建材を損傷しない場合は調査も不要)
複数工事を分割発注した場合の注意点
意図的に工事を分割して報告義務を逃れることは認められません。実質的に一つの工事とみなされる場合は、合算して判断されます。
合算される例
- 同一建物で同時期に複数の工事を発注(例:1階リフォーム50万円 + 2階リフォーム60万円 = 合計110万円で報告必要)
- 同一工事を複数の業者に分割発注(報告義務逃れと判断される可能性)
報告に必要な「gBizID」
システムを利用するには、デジタル庁が発行する共通認証ID「gBizID」が必要です。取得には2〜3週間かかることがあるため、事業者は早めの取得が必須です。
gBizIDの種類
| 種類 | 取得方法 | 取得期間 | 利用範囲 |
|---|---|---|---|
| gBizIDエントリー | メールアドレスのみで登録 | 即日 | 一部の行政サービスのみ |
| gBizIDプライム | 印鑑証明書を郵送して本人確認 | 2〜3週間 | 石綿報告システムを含む、ほぼ全ての行政サービス |
| gBizIDメンバー | プライムIDを持つ代表者が従業員用に発行 | 即日 | プライムIDと同等 |
石綿事前調査結果報告システムを利用するには、「gBizIDプライム」または「gBizIDメンバー」が必要です。エントリーでは利用できません。
gBizIDプライムの取得手順
- gBizIDのウェブサイトにアクセス:https://gbiz-id.go.jp/
- 「gBizIDプライム作成」を選択
- 事業者情報を入力:
- 法人番号または個人事業主の屋号
- 代表者氏名
- 連絡先(メールアドレス、電話番号)
- 住所
- 申請書を作成・印刷:入力内容を確認し、申請書をダウンロード・印刷
- 必要書類を郵送:
- 申請書(代表者の署名・押印)
- 印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
- 審査・承認:2〜3週間後にメールで通知が届く
- ID・パスワードの設定:メールの案内に従ってログイン情報を設定
gBizIDメンバーの発行手順(従業員用)
代表者がgBizIDプライムを取得済みの場合、従業員用のメンバーIDを簡単に発行できます。
- 代表者がgBizIDプライムでログイン
- 「メンバー管理」から「新規メンバー追加」を選択
- 従業員のメールアドレスを登録
- 従業員に招待メールが送信される
- 従業員がメールのリンクからID・パスワードを設定
誰が報告するのか?
報告義務者は「元請業者(リフォーム会社や解体業者)」です。発注者(施主)ではありませんが、発注者は業者から「調査結果の説明」を受け、それを保管しておく必要があります。
関係者の役割
| 関係者 | 役割 | 義務 |
|---|---|---|
| 発注者(施主) | 工事を依頼する側 |
・業者から調査結果の説明を受ける ・調査結果を3年間保管する ・設計図書など参考資料を業者に提供 |
| 元請業者 | 工事を請け負う側(直接契約) |
・有資格者による調査の実施 ・発注者への調査結果の説明・交付 ・報告システムへの報告 ・工事現場への調査結果の掲示 ・調査結果を3年間保管 |
| 下請業者 | 元請から工事を請け負う側 |
・元請から調査結果の共有を受ける ・適切な飛散防止対策を実施 |
| 調査者 | 建築物石綿含有建材調査者の資格保持者 |
・適切な調査の実施 ・調査報告書の作成 |
報告システムの使い方
ステップ1:システムへのアクセス
「石綿事前調査結果報告システム」にアクセスします。URLは厚生労働省のウェブサイトで確認できます。
ステップ2:ログイン
gBizIDプライムまたはメンバーのID・パスワードでログインします。
ステップ3:報告情報の入力
以下の項目を入力します:
1. 工事情報
- 工事名称
- 工事場所(住所)
- 工事の種類(解体 / 改修)
- 工事着手予定日
- 工事完了予定日
- 解体面積または請負金額
2. 事業者情報
- 元請業者の名称
- 元請業者の住所
- 元請業者の電話番号
- 担当者氏名
3. 調査情報
- 調査実施日
- 調査者氏名
- 調査者の資格種類(一般建築物石綿含有建材調査者 / 一戸建て等石綿含有建材調査者 / 特定建築物石綿含有建材調査者)
- 調査方法(書面調査 / 目視調査 / 分析調査)
4. 調査結果
- レベル1建材の有無(吹付けアスベスト等)
- レベル2建材の有無(保温材、耐火被覆材等)
- レベル3建材の有無(成形板等)
- 各建材の種類、使用箇所、面積・数量
- 分析結果(実施した場合)
5. 添付書類
- 調査報告書(PDF形式)
- 建材の写真(該当する場合)
- 分析結果報告書(分析を実施した場合)
ステップ4:入力内容の確認
入力した内容を確認します。誤りがないか、必須項目が全て入力されているかをチェックします。
ステップ5:提出
「提出」ボタンをクリックして、報告を完了します。提出が完了すると、受付番号が発行されます。この番号は必ず控えておいてください。
ステップ6:受付票の保管
システムから受付票(PDF)をダウンロードし、3年間保管します。
報告項目の詳細
工事の種類の選択
| 選択肢 | 該当する工事 |
|---|---|
| 解体工事 | 建築物の全部または一部を取り壊す工事 |
| 改修工事 | リフォーム、増築、模様替え、設備工事など |
| 解体工事と改修工事の両方 | 一部を解体して改修する工事 |
調査方法の選択
| 調査方法 | 内容 | 選択する場合 |
|---|---|---|
| 書面調査のみ | 設計図書等で確認 | 2006年9月1日以降着工で書類がある場合など |
| 書面調査 + 目視調査 | 有資格者が現地で確認 | 最も一般的な調査方法 |
| 書面調査 + 目視調査 + 分析調査 | 検体を採取して分析 | 含有の有無が目視で判断できない場合 |
建材の有無の報告
レベル1〜3それぞれについて、以下のいずれかを選択します:
- 含有している:アスベスト含有建材が確認された
- 含有していない:分析の結果、含有していないことが確認された
- みなし:分析せずに、アスベスト含有建材として扱う
- 該当なし:そのレベルの建材が使用されていない
よくあるエラーと対策
エラー1:「gBizIDでログインできません」
原因
- gBizIDエントリーを使用している(プライムが必要)
- ID・パスワードが間違っている
- アカウントがロックされている
対策
- gBizIDプライムまたはメンバーを取得する
- ID・パスワードを再確認(大文字・小文字の区別に注意)
- パスワードを再設定する
- gBizIDヘルプデスクに問い合わせる
エラー2:「工事着手日が過去の日付です」
原因
- 報告期限(工事着手の前日まで)を過ぎている
- 工事着手日の入力ミス
対策
- 正しい工事着手日を入力する
- すでに着手している場合は、速やかに報告し、別途労働基準監督署に相談する
エラー3:「添付ファイルのサイズが大きすぎます」
原因
- PDFファイルや画像ファイルのサイズが制限を超えている
対策
- PDFを圧縮する(Adobe Acrobatの「ファイルサイズを縮小」機能など)
- 画像の解像度を下げる(300dpi程度で十分)
- 複数のファイルをZIPで圧縮してアップロードする
エラー4:「建材の面積・数量が未入力です」
原因
- アスベスト含有建材ありと選択したが、面積・数量を入力していない
対策
- 調査報告書を確認し、建材ごとの面積・数量を入力する
- 不明な場合は概算値を入力し、備考欄にその旨を記載
エラー5:「調査者の資格が確認できません」
原因
- 調査者氏名や資格番号が間違っている
- 資格の有効期限が切れている
対策
- 調査者の資格証を確認し、正しい情報を入力する
- 資格の更新が必要な場合は、有資格者に調査をやり直してもらう
報告後の流れ
1. 受付番号の発行
報告が正常に受理されると、受付番号が発行されます。この番号は、問い合わせの際に必要になるため、必ず控えておいてください。
2. 受付票のダウンロード・保管
受付票(PDF)をダウンロードし、印刷して保管します。保管期間は3年間です。
3. 工事現場への掲示
調査結果を工事現場の見やすい場所に掲示します。掲示内容には以下が含まれます:
- 調査実施日
- 調査者氏名・資格
- 調査結果(アスベスト含有の有無)
- 工事期間
- 元請業者名
4. 工事の実施
調査結果に基づいて、適切な飛散防止対策を講じて工事を実施します。
5. 報告内容の変更が必要な場合
工事着手後に調査結果に変更があった場合(新たにアスベストが発見された場合など)は、速やかに変更報告を行います。
報告を怠った場合の罰則と事例
罰則
- 報告義務違反:30万円以下の罰金(石綿障害予防規則違反)
- 虚偽の報告:30万円以下の罰金
- 報告の遅延:指導・勧告の対象、悪質な場合は罰金
実際の違反事例
- 事例1:報告義務を知らなかった
千葉県の解体業者が、床面積100㎡の建物を解体する際に報告を行わず。近隣住民からの通報で発覚し、30万円の罰金処分。「知らなかった」は理由にならない。 - 事例2:工事着手後に報告
東京都のリフォーム業者が、工事着手後に報告を行った。労働基準監督署からの指導を受け、改めて適切な時期に報告をやり直すよう命じられた。 - 事例3:虚偽の報告(アスベストありをなしと報告)
大阪府の業者が、実際にはアスベストが含有されていたにもかかわらず「なし」と報告。工事後の検査で発覚し、刑事告発された。
報告義務チェックリスト
工事前(契約時)
- □ 工事規模が報告対象か確認(解体80㎡以上、改修100万円以上)
- □ 報告対象の場合、gBizIDプライムの取得(取得済みか確認)
- □ 調査実施のスケジュール確認(工事着手前に完了するか)
- □ 発注者への報告義務の説明
調査実施後
- □ 調査報告書の受領
- □ 発注者への調査結果の説明・交付
- □ 報告に必要な情報の整理(工事情報、調査情報、調査結果)
- □ 添付書類の準備(調査報告書PDF、写真、分析結果など)
工事着手前
- □ 報告システムへの報告(工事着手の前日まで)
- □ 受付番号の受領・保管
- □ 受付票のダウンロード・印刷・保管
- □ 工事現場への調査結果の掲示
工事期間中
- □ 調査結果の掲示が維持されているか
- □ 調査結果に変更がないか(新たにアスベストが発見されていないか)
工事完了後
- □ 調査報告書、受付票の3年間保管
よくある質問と回答
Q1. 報告はいつまでに行えばいいですか?
A: 工事着手の前日までです。余裕を持って、少なくとも1週間前までには報告を完了させることをお勧めします。
Q2. 報告システム以外の方法(紙や郵送)で報告できますか?
A: 原則として電子申請(報告システム)が義務付けられています。ただし、インターネット環境がない場合など、やむを得ない事情がある場合は、労働基準監督署に相談してください。
Q3. 報告後に工事内容が変更になった場合は?
A: 軽微な変更(工事期間の若干のずれなど)であれば、変更報告は不要です。ただし、調査結果に影響するような変更(工事範囲の拡大など)があった場合は、変更報告が必要です。
Q4. 下請業者も報告が必要ですか?
A: いいえ、報告義務があるのは元請業者のみです。ただし、下請業者は元請から調査結果の共有を受け、適切な対策を講じる必要があります。
Q5. 報告を忘れて工事を始めてしまいました。どうすればいいですか?
A: 速やかに工事を中止し、報告を行ってください。その後、労働基準監督署に相談し、指示に従ってください。工事続行の可否は監督署の判断によります。
よくある質問
Qアスベストが無い場合でも報告は必要?
はい、必要です。対象規模以上の工事であれば、「調査した結果、アスベストはありませんでした」という報告をしなければなりません。報告義務は「アスベストがある工事」ではなく「一定規模以上の全ての工事」に課されています。
Q報告を怠ったらどうなりますか?
石綿障害予防規則違反として、30万円以下の罰金刑の対象となります。また、虚偽の報告をした場合も同様です。さらに、法令違反の事実が公表される可能性があり、企業の信用にも大きな影響を及ぼします。
QgBizIDの取得に費用はかかりますか?
いいえ、gBizIDの取得・利用は無料です。ただし、印鑑証明書の取得費用(数百円)と郵送料(数百円)は自己負担となります。合計で1,000円前後の実費がかかります。
Q報告システムの操作がわかりません。どこに相談すればいいですか?
厚生労働省のコールセンターまたは所轄の労働基準監督署に相談してください。また、石綿事前調査結果報告システムには操作マニュアルやFAQが用意されているので、まずはそちらを確認することをお勧めします。
Q同じ建物で複数の工事を行う場合、それぞれ報告が必要ですか?
はい、工事ごとに報告が必要です。ただし、実質的に一つの工事を分割しているだけと判断される場合は、一つの報告として扱われます。判断に迷う場合は、労働基準監督署に相談してください。
Q緊急の工事の場合、報告を後回しにできますか?
いいえ、原則として工事着手前に報告が必要です。ただし、災害時の緊急工事など、やむを得ない場合は事後報告が認められることがあります。その場合でも、工事前に労働基準監督署に連絡し、指示を仰いでください。災害時でもアスベストの飛散防止対策は必須です。
Q報告内容に誤りがあった場合、どうすればいいですか?
報告システムから訂正報告を行ってください。軽微な誤り(誤字など)であれば、必ずしも訂正は必要ありませんが、調査結果や工事内容に関わる重要な誤りがある場合は、速やかに訂正してください。また、所轄の労働基準監督署にも連絡することをお勧めします。
Q外国人労働者が多い現場ですが、報告は日本語のみですか?
はい、報告システムは日本語のみです。ただし、工事現場での調査結果の掲示については、外国人労働者がいる場合は、多言語での掲示が推奨されています。厚生労働省のウェブサイトに多言語版のサンプルが用意されている場合がありますので、活用してください。