区域指定とは何か
土壌汚染対策法に基づく調査で基準超過の汚染が見つかった場合、または自主調査で汚染を発見して申請した場合、都道府県知事はその土地を「区域」として指定します。指定された土地は台帳に記載され、インターネットで誰でも閲覧できる状態になります。
この記事では、区域指定の種類、指定されることのデメリット、指定解除の要件と手続き、必要書類、解除までの期間、そして実際の解除事例まで徹底的に解説します。
指定区域には2種類ある
土壌汚染が見つかり、行政へ報告すると、その土地は「区域指定」され、台帳に記載・公開されます。区域には健康リスクの程度に応じて重さが異なる2種類があります。
1. 要措置区域(レッドカード)
定義
「土壌汚染により健康被害が生ずるおそれがある」と知事が認めた土地です。地下水を飲用する経路がある、土壌を直接摂取する経路がある場合などが該当します。
該当する典型例
- 地下水汚染があり、周辺住民が井戸水を飲んでいる
- 学校や公園など子どもが土を触る可能性が高い土地
- 住宅地で、地下水が飲用に使われる可能性がある
土地所有者の義務
| 義務 | 内容 | 期限 |
|---|---|---|
| 措置実施 | 知事が指示する汚染除去、封じ込め等の措置を実施 | 知事が定める期限まで(通常1〜2年) |
| 完了報告 | 措置完了後、速やかに知事に報告 | 完了後30日以内 |
| 記録保存 | 措置の内容を記録し、保存 | 永久保存 |
罰則
措置命令に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という厳しい罰則があります。また、命令違反は公表されます。
2. 形質変更時要届出区域(イエローカード)
定義
「基準超過の汚染はあるが、今すぐ健康被害が生じるおそれはない」土地です。地下水汚染がない、または地下水を飲用する経路がない場合などが該当します。
該当する典型例
- 工場敷地内で、敷地外への汚染拡散がない
- アスファルトや建物で覆われており、土壌摂取リスクがない
- 地下水汚染はあるが、周辺で飲用されていない
土地所有者の義務
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 形質変更時の届出 | 土地を掘削する場合、14日前までに知事に届出 |
| 汚染拡散防止 | 形質変更の際、汚染土壌を適正に処理 |
| 記録保存 | 形質変更の記録を保存 |
重要: 現状のまま使い続ける分には何の制限もありません。工場として使用継続、駐車場として利用なども自由です。
2種類の区域の比較表
| 項目 | 要措置区域 | 形質変更時要届出区域 |
|---|---|---|
| 健康リスク | 高い(直ちに対策が必要) | 低い(現状では問題なし) |
| 措置義務 | あり(強制) | なし(現状維持なら不要) |
| 形質変更 | 原則禁止(知事の許可が必要) | 届出制(14日前に届出) |
| 解除の難易度 | 高い(措置完了が必要) | 比較的容易(汚染除去すればOK) |
指定されることのデメリット
1. 資産価値の大幅下落
区域指定されると、不動産鑑定上「汚染土地」として扱われ、市場価値が大幅に下がります。
| 区域種別 | 価値減少率の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 要措置区域 | 50%〜90%減 | 措置費用が莫大な場合、ほぼ無価値になることも |
| 形質変更時要届出区域 | 20%〜50%減 | 用途によっては10%程度の減少で済む場合も |
2. 融資が受けられない
金融機関は指定区域の土地を担保として評価しないため、住宅ローンや事業融資を受けることが極めて困難になります。
3. 風評被害
台帳がインターネットで公開されるため、近隣住民や取引先に知られ、企業イメージが毀損されることがあります。
4. 売却困難
買主が限定されるため、売却まで長期間かかるか、大幅な値引きが必要になります。特に要措置区域は、ほとんど売却不可能です。
指定解除の要件詳細
要措置区域の解除要件
以下のいずれかを満たすことが必要です:
- 措置の完了: 知事が命じた措置(汚染除去等)を完了し、確認を受ける
- リスク低減: 措置により健康被害のおそれがなくなったと知事が認める(この場合、形質変更時要届出区域に変更)
形質変更時要届出区域の解除要件
以下を満たすことが必要です:
- 汚染の除去: 汚染土壌をすべて掘削除去し、基準値以下であることを確認
- 自然由来の場合の特例: 自然由来の汚染で、同一地層の汚染が広範囲に存在する場合、区域の一部だけ浄化しても解除されないことがある
指定解除の申請手続きフロー
ステップ1:措置計画の作成・提出
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計画策定 | 汚染除去の工法、期間、費用を記載した措置計画を作成 |
| 提出先 | 都道府県の環境部局 |
| 審査期間 | 提出から30日程度 |
ステップ2:措置の実施
- 工事実施: 計画に基づき汚染除去工事を実施
- 記録作成: 掘削範囲、搬出量、処分先などを詳細に記録
- 写真撮影: 工事の各段階で写真を撮影し、証拠を残す
ステップ3:効果確認調査
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査実施 | 指定調査機関による効果確認のための土壌調査 |
| 調査地点 | 掘削底面、側面で基準値以下であることを確認 |
| 報告書作成 | 調査結果を報告書にまとめる |
ステップ4:完了報告・解除申請
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 完了報告提出 | 措置完了報告書、効果確認調査報告書を知事に提出 |
| 現地確認 | 都道府県の職員による現地確認(実施されない場合もある) |
| 審査期間 | 提出から30〜60日 |
ステップ5:指定解除の公示
- 解除告示: 知事が区域指定を解除し、官報または県報で告示
- 台帳削除: インターネット公開されている台帳から削除
- 通知: 土地所有者に解除通知が送付される
必要書類一覧
措置計画提出時
- 措置計画書
- 土地の位置図・配置図
- 汚染範囲図
- 工事工程表
- 汚染土壌の処分先の許可証写し
完了報告・解除申請時
- 措置完了報告書
- 効果確認調査報告書(指定調査機関が作成)
- 工事記録(掘削範囲、深さ、搬出量など)
- 工事写真(着工前、施工中、完成後)
- 汚染土壌の処分伝票(マニフェスト)
- 土地所有者の印鑑証明書
- 委任状(代理人が申請する場合)
解除までの期間
工法別の期間目安
| 工法 | 工事期間 | 申請〜解除 | 合計期間 |
|---|---|---|---|
| 掘削除去(小規模) | 1〜2ヶ月 | 2〜3ヶ月 | 3〜5ヶ月 |
| 掘削除去(大規模) | 3〜6ヶ月 | 3〜4ヶ月 | 6〜10ヶ月 |
| 原位置浄化 | 1〜3年 | 3〜6ヶ月 | 1.5〜3.5年 |
| 地下水浄化 | 2〜5年 | 6〜12ヶ月 | 2.5〜6年 |
期間を短縮するポイント
- 事前相談: 工事着手前に都道府県と十分に協議し、手続きを確認
- 迅速な工事: 掘削除去なら最短3ヶ月で解除可能
- 書類の事前準備: 完了報告に必要な書類を工事中から準備
- 指定調査機関の早期手配: 効果確認調査を速やかに実施
実際の解除事例
事例1:クリーニング店跡地(形質変更時要届出区域)
汚染内容: テトラクロロエチレン(最大濃度:基準の5倍)
対策工法: 掘削除去(深さ3m、汚染土壌量50㎥)
費用: 250万円
工事期間: 1ヶ月
解除まで: 申請から3ヶ月で解除
ポイント: 汚染範囲が狭く、掘削除去が最も経済的だった。
事例2:メッキ工場跡地(要措置区域)
汚染内容: 六価クロム、シアン化合物(最大濃度:基準の20倍)
対策工法: 掘削除去(深さ5m、汚染土壌量800㎥)
費用: 3,500万円
工事期間: 4ヶ月
解除まで: 措置計画提出から8ヶ月で解除
ポイント: 措置命令により確実な除去が求められ、掘削除去を選択。
事例3:ガソリンスタンド跡地(形質変更時要届出区域)
汚染内容: ベンゼン(土壌・地下水とも汚染)
対策工法: 土壌は掘削除去、地下水はバイオレメディエーション
費用: 1,200万円
工事期間: 土壌2ヶ月、地下水2年
解除まで: 3年
ポイント: 地下水浄化に時間がかかったが、段階的に対策を実施。
解除後の土地の価値
解除されれば完全に回復するのか?
指定解除されると法律上は「汚染のない土地」として扱われますが、実務上は以下の注意が必要です:
- 履歴の残存: 過去に指定されていた事実は、不動産業者や金融機関の調査で判明することがある
- 告知義務: 売買時に「過去に指定されていたが解除済み」と告知すべきか、弁護士と相談が必要
- 価格への影響: 完全解除されても、周辺相場より5〜10%安くなることがある
価値回復を最大化するポイント
- 解除証明書を大切に保管し、買主に提示できるようにする
- 浄化工事の記録を保存し、透明性を確保する
- 第三者の環境コンサルタントに「浄化完了証明書」を発行してもらう
まとめ:早期解除が資産価値保全の鍵
区域指定されると資産価値は大きく毀損しますが、適切な措置を迅速に実施すれば、数ヶ月〜1年程度で解除できます。「様子を見る」「そのうち解除しよう」と先延ばしすると、その間ずっと低い価値のままです。
特に形質変更時要届出区域の場合、掘削除去なら半年以内に解除可能です。早期に専門家(土壌汚染コンサルタント、指定調査機関)に相談し、計画を立てることが重要です。
よくある質問
Q指定されると地価は下がりますか?
一般的には大幅に下がります。特に「要措置区域」は対策費用が莫大になるため、市場価値は50〜90%減少します。「形質変更時要届出区域」であれば、対策費用の減価分(20〜50%減)程度で済む場合もありますが、買い手は限定されます。融資も受けられなくなるため、実質的な流動性はほぼゼロになります。
Q浄化工事にはどれくらいの期間がかかりますか?
工法によります。汚染土壌をすべて掘り出して入れ替える「掘削除去」なら1〜4ヶ月で終わりますが、微生物などで時間をかけて分解する「原位置浄化」などは1〜3年かかります。地下水汚染がある場合はさらに長く、2〜5年かかることもあります。急いで解除したい場合は、費用は高くても掘削除去を選ぶべきです。
Q指定区域に指定されたまま土地を売却できますか?
できますが、買主は極めて限定されます。要措置区域の場合、買主は措置義務を引き継ぐため、ほとんど買い手がつきません。形質変更時要届出区域であれば、専門の土地再生事業者や、駐車場・資材置き場として使いたい買主なら購入する可能性があります。いずれにせよ、価格は大幅に下がります(浄化費用分を値引きするのが一般的)。
Q指定解除の申請は自分でできますか?
理論上は可能ですが、実務上は極めて困難です。効果確認調査は「指定調査機関」にしか実施できず、措置完了報告書も専門的な内容が求められます。また、都道府県との協議も頻繁に必要です。専門のコンサルタントまたは指定調査機関に依頼することを強くお勧めします。報酬は50万〜200万円程度ですが、確実に解除するための投資と考えるべきです。
Q形質変更時要届出区域に指定されたまま建物を建てられますか?
建てられますが、14日前までに形質変更の届出が必要です。また、基礎工事で汚染土壌を掘削する場合、適正な処理(汚染土壌処理施設への搬出)が必要で、通常の建設費より高くなります。また、金融機関が融資しないことが多いため、現金で建設資金を用意する必要があります。実務上は、建設前に汚染を除去して解除してから建てるのが一般的です。
Q指定解除後、再び汚染が見つかったらどうなりますか?
再び区域指定される可能性があります。ただし、適切に浄化工事を行い、効果確認調査で基準値以下を確認していれば、通常は再汚染は発生しません。万が一、浄化が不十分だった場合や、隣地から汚染が流入した場合は、再指定のリスクがあります。このため、浄化工事は信頼できる業者に依頼し、工事記録をしっかり保存しておくことが重要です。
Q自然由来の汚染でも指定解除できますか?
できますが、通常の汚染より難しい場合があります。自然由来の汚染は広範囲に存在するため、一部だけ浄化しても意味がないと判断されることがあります。ただし、同一地層の汚染が広がっていない場合(局所的な自然由来)や、土地全体を深く掘削除去した場合は解除可能です。自然由来かどうかの判定には追加調査(周辺ボーリング調査など)が必要で、20〜50万円程度の費用がかかります。