店舗・テナント解体の基礎知識
店舗やテナントを退去する際、多くの賃貸契約では「原状回復」または「スケルトン解体」が義務付けられています。住宅解体とは異なり、店舗解体には独特の費用構造と注意点があります。本記事では、店舗解体の種類、費用相場、工期、トラブル防止策まで、実務に基づいた情報を詳しく解説します。
店舗解体の2つのタイプ
1. 原状回復工事
原状回復工事とは、入居時の状態に建物を戻す工事です。賃貸借契約書に「原状回復義務」が記載されている場合、借主(テナント)は退去時にこの工事を実施する義務があります。
原状回復の対象範囲:
- 借主が設置した内装(壁紙、床材、天井仕上げなど)の撤去
- 借主が設置した設備(厨房機器、エアコン、照明器具など)の撤去
- 借主が施した電気・水道・ガスの増設配線・配管の撤去
- 壁や床の穴、傷の補修
- 清掃
💡 ポイント:「入居時の状態」とは、前のテナントが施工した内装が残っている状態を指すことが多いです。必ずしもコンクリート打ちっぱなしまで戻す必要はありません。契約書と貸主との協議で範囲を確認しましょう。
2. スケルトン解体
スケルトン解体とは、内装・設備をすべて撤去し、躯体(コンクリート・鉄骨の骨組み)のみを残す工事です。原状回復よりも徹底的に解体します。
スケルトン解体の対象範囲:
- すべての内装材(壁、天井、床)の撤去
- すべての設備(空調、照明、水回り設備)の撤去
- 電気・ガス・水道の配線・配管を建物の主幹まで撤去
- 看板・サインの撤去
- 躯体の清掃
スケルトン解体は、次の入居者が自由に内装を作れるようにするため、新築時や大規模商業施設の区画では一般的です。
⚠️ 契約書を必ず確認
「原状回復」と「スケルトン解体」は法的に明確な定義がなく、契約書によって範囲が異なります。工事開始前に必ず契約書を確認し、不明点は貸主(オーナー)や管理会社と協議してください。認識の違いによるトラブルが最も多いポイントです。
店舗解体の費用相場
工事タイプ別の費用相場
| 工事タイプ | 坪単価 | 20坪の場合 | 50坪の場合 |
|---|---|---|---|
| 原状回復(軽度) | 2〜3万円/坪 | 40〜60万円 | 100〜150万円 |
| 原状回復(中程度) | 3〜5万円/坪 | 60〜100万円 | 150〜250万円 |
| スケルトン解体 | 4〜8万円/坪 | 80〜160万円 | 200〜400万円 |
| 飲食店(厨房あり) | 5〜10万円/坪 | 100〜200万円 | 250〜500万円 |
業種別の費用相場
| 業種 | 特徴 | 坪単価目安 |
|---|---|---|
| 美容室・理容室 | シャンプー台、鏡、椅子、配管・配線多数 | 3〜6万円/坪 |
| 飲食店(カフェ・軽食) | 小規模厨房、カウンター、客席 | 4〜7万円/坪 |
| 飲食店(レストラン・居酒屋) | 本格厨房、ダクト、グリストラップ、大量の廃棄物 | 6〜10万円/坪 |
| 物販店(アパレル・雑貨) | 比較的シンプルな内装、什器の撤去 | 2〜4万円/坪 |
| オフィス | パーティション、OAフロア、配線 | 2〜5万円/坪 |
| クリニック・歯科医院 | 医療機器、診察室、衛生設備、産業廃棄物(医療系) | 5〜9万円/坪 |
費用が高くなる要因
- 厨房設備の撤去:グリストラップ、大型フード、ダクト工事は高額(+30〜80万円)
- アスベスト含有建材:2006年以前の建物は調査が必要。含有の場合+20〜100万円
- 高層階・エレベーターなし:資材搬出の手間で+10〜30%増
- 夜間・休日工事:商業施設内のテナントは営業時間外に工事するため+20〜40%増
- 廃棄物の量:特に飲食店は油汚れや大量の厨房機器で処分費が高額
- 原状回復の範囲が広い:床・壁・天井すべてをやり直す場合は費用増
店舗解体の工期
| 店舗規模・業種 | 工期目安 |
|---|---|
| 小規模店舗(10〜20坪、物販) | 3〜7日 |
| 中規模店舗(30〜50坪、オフィス・物販) | 7〜14日 |
| 飲食店(20〜30坪、厨房あり) | 10〜14日 |
| 飲食店(50坪以上、厨房・ダクト複雑) | 2〜3週間 |
| スケルトン解体(大型テナント) | 2〜4週間 |
💡 ポイント:商業施設内のテナントは、営業時間外(夜間・早朝)の工事が義務付けられることが多く、工期が長くなります。
店舗解体の流れ(ステップバイステップ)
ステップ1:契約書の確認(退去の2〜3ヶ月前)
賃貸借契約書を確認し、原状回復の範囲を把握します。特に以下の条項を確認:
- 原状回復の範囲(「入居時の状態」「スケルトン」など)
- 指定業者の有無(貸主が解体業者を指定する場合がある)
- 退去予告期間(通常3〜6ヶ月前)
- 保証金・敷金の返還条件
ステップ2:貸主・管理会社との協議(退去の2ヶ月前)
契約書だけでは判断できない部分を貸主と協議します。
- 具体的な原状回復範囲の確認(写真を見せてもらう)
- 解体業者の選定方法(指定業者か、借主の自由選定か)
- 工事スケジュールの調整
- 立会検査の日程
⚠️ 指定業者に注意
契約書に「貸主指定の業者で工事を行うこと」と記載されている場合、その業者に依頼する義務があります。ただし、指定業者の見積もりが相場より著しく高い場合は交渉の余地があります。複数の見積もりを取り、交渉材料にしましょう。
ステップ3:解体業者の選定・見積もり(退去の1〜2ヶ月前)
店舗解体の実績がある業者を3社程度選び、相見積もりを取ります。
- 現地調査を依頼(無料)
- 見積書の内訳を確認(解体費、処分費、諸経費など)
- 工期の確認
- 過去の実績(同業種の施工例)を確認
💡 業者選びのポイント:店舗解体は住宅解体と異なるノウハウが必要です。「飲食店の厨房解体の経験」「商業施設内での工事実績」など、業種特有の経験がある業者を選びましょう。
ステップ4:解体工事の実施
工事開始。商業施設内の場合は夜間工事が一般的です。
- 養生・近隣(同フロアのテナント)への挨拶
- 内装・設備の解体
- 廃棄物の搬出
- 清掃
ステップ5:立会検査・引渡し
工事完了後、貸主または管理会社の立会のもと、原状回復が適切に完了したか検査を受けます。
- 契約書通りの範囲で工事が完了しているか確認
- 清掃が行き届いているか確認
- 鍵の返却
立会検査で問題がなければ、保証金・敷金の返還手続きに進みます。
店舗解体でよくあるトラブルと対策
トラブル1:「原状回復の範囲」の認識違い
問題:貸主が「スケルトンまで戻せ」と言うが、契約書には明記されていない。
対策:
- 契約書の原状回復条項を再確認
- 入居時の写真があれば提示
- 不動産仲介業者に間に入ってもらう
- 弁護士に相談(高額な追加請求の場合)
トラブル2:指定業者の見積もりが高すぎる
問題:貸主指定の業者の見積もりが相場の2倍以上。
対策:
- 他社の相見積もりを取り、比較表を作成
- 貸主に「相場より高額」と交渉
- 「消費者契約法」に基づき、不当に高額な場合は無効を主張できる可能性も
トラブル3:敷金が返ってこない
問題:原状回復工事を完了したのに、貸主が敷金を返還しない。
対策:
- 立会検査の記録を残す(写真・動画)
- 工事完了報告書を書面で提出
- 内容証明郵便で返還請求
- 少額訴訟(60万円以下)または通常訴訟で法的手段
トラブル4:工事中の騒音・粉塵で近隣テナントからクレーム
問題:同じフロアのテナントから「うるさい」「埃が入ってくる」とクレーム。
対策:
- 工事開始前に近隣テナントに挨拶・通知
- 養生を徹底
- 工事時間を協議(営業時間外に限定)
- 管理会社に事前通知してもらう
店舗解体の費用を抑えるコツ
1. 什器・厨房機器を買取業者に売却
まだ使える設備は買取業者に売却しましょう。特に以下は需要があります:
- 厨房機器(冷蔵庫、製氷機、フライヤーなど)
- エアコン
- 什器(棚、陳列台、レジカウンターなど)
- 照明器具
買取額は数万〜数十万円になることもあり、解体費用の足しになります。
2. 複数の業者から相見積もりを取る
店舗解体の費用は業者によって大きく異なります。最低3社から見積もりを取り、比較しましょう。
3. 自分でできる撤去は事前にやっておく
以下の作業は自分で行うことで費用を削減できます:
- 在庫商品の搬出
- 書類・備品の整理
- 軽量什器の運び出し
4. 解体業者に直接依頼する
貸主指定業者が高額な場合、交渉して自分で業者を選べるようにしましょう。元請け→下請けの構造を避け、直接解体業者に依頼することで中間マージンを削減できます。
まとめ:店舗解体で失敗しないために
- 契約書を必ず確認:原状回復の範囲、指定業者の有無を把握
- 貸主と事前協議:認識のずれをなくす
- 相見積もりを取る:指定業者でも交渉の余地あり
- 立会検査の記録を残す:トラブル防止のため写真・動画を撮影
- 早めに動く:退去の2〜3ヶ月前から準備を開始
店舗解体は費用が高額になりやすく、トラブルも多い分野です。しっかりと準備し、信頼できる業者を選ぶことで、スムーズな退去を実現しましょう。
よくある質問
Q原状回復の費用は誰が払いますか?
通常は借主(テナント)が負担します。
Q厨房機器は買い取ってもらえますか?
はい、中古厨房機器の買取業者に売却できる場合があります。