土壌汚染調査のステップと費用
土壌汚染調査は、いきなり重機で掘削を始めるわけではありません。法律や実務上の効率性を考慮して、段階的に進めていく仕組みになっています。各フェーズで「これ以上調査する必要があるか」を判断しながら進めることで、無駄なコストを抑えつつ、必要な情報を確実に得ることができます。
この記事では、土壌汚染調査の各フェーズの費用詳細、期間、調査内容、そして賢い調査会社の選び方まで徹底的に解説します。
Phase 1:地歴調査(机上調査)の詳細
地歴調査とは何か
地歴調査(ちれきちょうさ)は、実際に現地に行かず、文献や資料だけで土壌汚染の可能性を判定する机上調査です。環境省が定める「土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン」に従って実施されます。
調査内容の詳細
地歴調査では以下の資料を徹底的に調べます:
- 住宅地図(古地図): 過去50年分以上を遡り、工場や特定施設の有無を確認
- 登記簿謄本: 土地の過去の所有者や用途を追跡
- 空中写真: 国土地理院のアーカイブから、建物や煙突、タンクの痕跡を探す
- ヒアリング: 現所有者や近隣住民から過去の土地利用状況を聞き取り
- 行政資料: 環境部局が保有する特定施設の届出記録を確認
- 現地踏査: 建物の配置、配管痕、地面の変色など目視確認
Phase 1の費用内訳
| 項目 | 費用相場 | 備考 |
|---|---|---|
| 資料収集・調査 | 8万円〜15万円 | 住宅地図、登記簿、空中写真の取得・分析 |
| ヒアリング・現地踏査 | 3万円〜8万円 | 調査員の人件費、交通費 |
| 報告書作成 | 5万円〜10万円 | 地歴調査報告書の作成・製本 |
| 合計 | 10万円〜30万円 | 敷地面積500㎡〜3,000㎡程度の場合 |
Phase 1で調査が終わるケース
地歴調査の結果、「土壌汚染のおそれがない」と判定されれば、ここで調査は終了します。これは以下のような場合です:
- 過去に一度も工場や化学物質を扱う施設が存在しなかった
- 一貫して住宅地・農地・山林として利用されてきた
- 周辺に汚染源となる施設がなかった
コスト削減のポイント: Phase 1を専門性の高い調査会社に依頼することで、「汚染のおそれがない区画」を正確に特定でき、Phase 2の調査地点数を最小限に抑えられます。
Phase 2:表層土壌調査(ボーリング調査)の詳細
表層土壌調査とは
Phase 1で「汚染のおそれがある」と判定された場合、実際に土壌サンプルを採取して化学分析を行います。これがPhase 2:表層土壌調査です。土壌汚染対策法では、900㎡区画ごとに1地点(または30m格子ごとに1地点)の調査が基本とされています。
ボーリング1本あたりの費用詳細
| 作業項目 | 費用相場 | 詳細 |
|---|---|---|
| ボーリング掘削(表層0.5m) | 2万円〜4万円 | ハンドオーガーまたは簡易ボーリング機械 |
| 土壌サンプル採取・保管 | 5千円〜1万円 | 適切な容器に密閉、ラベリング |
| 分析費用(土壌溶出試験) | 2万円〜4万円 | 第一種特定有害物質(VOC等)の場合 |
| 分析費用(土壌含有量試験) | 1.5万円〜3万円 | 第二種特定有害物質(重金属等)の場合 |
| 1地点あたり合計 | 5万円〜10万円 | 分析項目数により変動 |
分析項目ごとの費用
土壌汚染対策法で定められた特定有害物質は26物質ありますが、すべてを調べる必要はありません。地歴調査の結果に基づき、「使用していた可能性のある物質」に絞って調査します。
| 分類 | 主な物質 | 1項目あたり分析費用 |
|---|---|---|
| 第一種(揮発性有機化合物) | ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなど | 1.5万円〜2.5万円 |
| 第二種(重金属等) | 鉛、砒素、六価クロム、水銀、カドミウムなど | 1万円〜2万円 |
| 第三種(農薬等) | シマジン、チウラムなど | 2万円〜3万円 |
敷地面積別の費用目安
| 敷地面積 | 調査地点数(目安) | 総費用目安 |
|---|---|---|
| 500㎡以下 | 5〜8地点 | 30万円〜60万円 |
| 500㎡〜1,000㎡ | 8〜12地点 | 50万円〜100万円 |
| 1,000㎡〜3,000㎡ | 12〜30地点 | 80万円〜250万円 |
| 3,000㎡以上 | 30地点以上 | 200万円〜500万円以上 |
調査期間の内訳
- 準備・許可申請: 1週間〜2週間(土地所有者の承諾、近隣への説明など)
- 現地サンプリング作業: 1日〜3日(地点数による)
- 分析機関での測定: 2週間〜4週間(分析項目数による)
- 報告書作成: 1週間〜2週間
- 合計: 1ヶ月〜2ヶ月
Phase 3:詳細調査(深度方向・範囲確定調査)
詳細調査が必要になるケース
Phase 2で基準値を超える汚染が検出された場合、「どこまで深く、どの範囲に汚染が広がっているか」を特定するために詳細調査を実施します。
詳細調査の費用構成
| 調査内容 | 費用相場 | 備考 |
|---|---|---|
| 深度方向ボーリング(5m〜10m) | 15万円〜30万円/本 | 深さによって変動 |
| 範囲確定のための追加地点調査 | 8万円〜15万円/地点 | 汚染範囲の外縁を特定 |
| 地下水調査(観測井設置・採水分析) | 20万円〜40万円/井戸 | 地下水汚染の有無を確認 |
| 汚染土壌量の算定 | 10万円〜20万円 | 対策費用の見積もりに必要 |
| 合計 | 100万円〜500万円 | 汚染の広がりによって大きく変動 |
追加調査が必要になるケース
1. 自然由来の汚染が疑われる場合
砒素やフッ素などは、自然の地層に由来することがあります。この場合、自然由来であることを証明するための追加調査が必要になり、20万円〜50万円程度の費用がかかります。
2. 土地利用履歴が複雑な場合
複数の工場が操業していた履歴がある場合、調査対象物質が増え、費用が1.5倍〜2倍になることがあります。
3. 敷地が広大な場合
1万㎡を超える敷地では、地点数が100地点を超えることもあり、Phase 2だけで1,000万円以上かかるケースもあります。
調査費用を抑える実践的な方法
1. 地歴調査を徹底する
Phase 1で「汚染のおそれがない区画」を正確に特定することで、Phase 2の調査地点を大幅に削減できます。Phase 1に10万円多く払っても、Phase 2で50万円削減できれば十分な投資です。
2. 複数社から見積もりを取る
調査会社によって費用は2倍近く差が出ることがあります。最低3社から見積もりを取り、内訳を比較しましょう。
3. 分析項目を絞る
全26物質を調べると莫大な費用になります。地歴調査で「使用した可能性が高い物質」に絞ることで、分析費用を30〜50%削減できます。
4. 自治体の助成金を確認する
一部の自治体では、土壌汚染調査費用の助成制度があります(例:東京都は調査費用の1/2、上限100万円など)。条件は厳しいですが、該当すれば大きな節約になります。
調査会社選びのチェックポイント
必須資格・認定
- 環境計量士(濃度関係)が在籍している
- 土壌汚染調査技術管理者が在籍している
- 指定調査機関として環境大臣の指定を受けている
実績・専門性
- 過去3年間の調査実績が50件以上ある
- 同じ業種(工場、クリーニング店など)の調査経験がある
- 行政への報告書作成経験が豊富
見積もりの透明性
- 調査地点数の根拠が明確
- 分析項目の選定理由が説明されている
- 追加調査が必要になった場合の費用体系が明記されている
まとめ:段階的に進めることでコストを最適化
土壌汚染調査は、Phase 1から順番に進めることで「必要な調査だけを実施する」仕組みになっています。最初から「全部調査」を提案してくる業者には注意が必要です。
賢い土地所有者は、Phase 1で信頼できる専門家を選び、その判断に基づいて段階的に投資を決めています。急がば回れ、まずは地歴調査からしっかり始めましょう。
よくある質問
Q調査費用は誰が負担するのですか?
義務調査(土対法に基づく調査)の場合は土地の所有者等が負担します。自主調査(売買時など)の場合は、売主・買主どちらが負担するか交渉次第ですが、売主が「契約不適合責任」を免れるために事前に実施するケースが増えています。特に宅建業者が売主の場合、買主保護のため調査を実施することが一般的です。
Q安く済ませる方法はありますか?
地歴調査(Phase 1)をしっかり行い、「汚染の恐れがない区画」を明確にすることで、実際に掘る(Phase 2)地点数を減らせる可能性があります。地歴調査に強い専門機関を選ぶことがコストダウンの鍵です。また、複数社から見積もりを取り、分析項目を地歴に基づいて必要最小限に絞ることも重要です。
Q見積もりの有効期限はどれくらいですか?
一般的に見積もりの有効期限は3ヶ月程度です。分析費用や人件費は変動する可能性があるため、有効期限を過ぎた場合は再見積もりが必要になることがあります。契約前に有効期限を確認してください。
Q調査の途中で費用が追加されることはありますか?
あります。Phase 2で汚染が見つかった場合、Phase 3の詳細調査が必要になります。また、予想外の地下埋設物(旧タンクなど)が見つかった場合も追加費用が発生します。契約時に「追加調査が必要になった場合の費用体系」を明確にしておくことが重要です。
QPhase 2で汚染が見つかる確率はどれくらいですか?
地歴調査で「汚染のおそれあり」と判定された土地のうち、実際に基準超過が見つかる割合は約20〜30%です。つまり70〜80%は基準以下で問題ありません。ただし、工場やクリーニング店など明らかなリスク施設があった場合は、検出率が50%を超えることもあります。
Q分析結果が出るまでどれくらいかかりますか?
土壌サンプルを採取してから分析結果が出るまで、通常2〜4週間かかります。年度末(2〜3月)は分析機関が混雑するため、6週間以上かかることもあります。急ぐ場合は「特急料金」で1週間程度に短縮できる分析機関もありますが、費用が1.5〜2倍になります。
Q隣の土地から汚染が流れてくることはありますか?
あります。特に地下水汚染の場合、上流側の土地から汚染が流入することがあります。この場合、原因者(汚染源の土地所有者)に対策を求めることができますが、特定が困難なケースも多いです。リスクが高い立地(下流側、工業地域の隣接地など)では、購入前の調査が特に重要です。