自然減衰(MNA)とは
Monitored Natural Attenuation(MNA)とは、積極的な浄化工事を行わず、土壌や地下水中の微生物の働き、地下水の流れ、化学反応などの自然のプロセスによって汚染物質を分解・希釈させる対策手法です。
「自然任せ」と誤解されがちですが、実際には定期的なモニタリング(監視)を継続し、汚染が確実に減少していることを確認しながら進める科学的な対策方法です。欧米では1990年代から導入され、日本でも土壌汚染対策法の指定区域において適用可能な対策として認められています。
自然減衰が注目される理由
土壌汚染対策には通常、数千万円から数億円の費用がかかります。掘削除去、原位置浄化、遮水壁設置など、どの手法も高額であり、中小企業や個人の土地所有者にとっては大きな負担となります。
自然減衰(MNA)の最大のメリットは、浄化工事費用がかからず、モニタリング費用のみで対策できる点です。年間のモニタリング費用は50万円〜150万円程度であり、浄化工事と比較して圧倒的に低コストです。
対策コスト比較(500㎡の土地の場合)
| 対策手法 | 初期費用 | 年間維持費 |
|---|---|---|
| 掘削除去 | 2,000万円〜5,000万円 | 0円 |
| 原位置浄化 | 1,000万円〜3,000万円 | 0〜100万円 |
| 自然減衰(MNA) | 0円 | 50〜150万円 |
自然減衰のメカニズム
自然減衰では、以下の4つのプロセスが複合的に働いて汚染物質が減少します。
1. 生物分解(バイオデグラデーション)
土壌中の微生物が汚染物質を分解するプロセスです。特に石油系炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン等)や一部の有機塩素系化合物は、微生物によって分解されやすい物質です。
- 好気性分解:酸素がある環境で、微生物が汚染物質を水とCO2に分解
- 嫌気性分解:酸素がない環境で、微生物が汚染物質を還元的に分解
生物分解が進んでいるかは、地下水中の溶存酸素、硝酸イオン、鉄イオン、メタンなどの指標を測定することで確認できます。
2. 希釈(ディリューション)
地下水の流れによって、汚染物質の濃度が徐々に薄まっていくプロセスです。降雨によって地下水が増えたり、上流からきれいな地下水が流入することで、汚染濃度が低下します。
希釈効果を評価するには、地下水の流速・流向を把握し、汚染プルーム(汚染が広がった範囲)の拡大がないことを確認する必要があります。
3. 吸着(ソープション)
汚染物質が土壌粒子の表面に吸着・固定され、地下水への溶出が抑えられるプロセスです。特に粘土質の土壌では、重金属や有機化合物が吸着されやすい傾向があります。
吸着によって汚染物質の移動が遅くなり、その間に生物分解が進むため、自然減衰を促進する効果があります。
4. 揮発(ボラタイゼーション)
揮発性の高い汚染物質(ベンゼン、トルエン、トリクロロエチレンなど)が、土壌から大気へ放散するプロセスです。浅い土壌では揮発が活発に起こりますが、深部の地下水では揮発の効果は限定的です。
自然減衰が適用できる条件
自然減衰は全ての土壌汚染に適用できるわけではありません。以下の条件を満たす必要があります。
1. 汚染物質が生物分解性を持つ
自然減衰が適用できるのは、微生物によって分解可能な汚染物質です。
適用しやすい汚染物質
- ✓ 石油系炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン)
- ✓ 一部の有機塩素系化合物(トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン)
- ✓ MTBE(燃料添加剤)
適用が難しい汚染物質
- ✗ 重金属(鉛、カドミウム、ヒ素など):微生物で分解できない
- ✗ 六価クロム:酸化還元反応で三価クロムになることはあるが、除去はできない
- ✗ 残留性有機汚染物質(PCB、ダイオキシン):分解されにくい
2. 汚染濃度が比較的低い
基準値の数倍程度の汚染であれば自然減衰が有効ですが、基準値の数十倍〜数百倍の高濃度汚染では、自然減衰だけでは対策期間が長すぎるため、他の対策が必要です。
3. 飲用井戸等への影響がない
自然減衰を適用する場合、周辺に飲用井戸がないこと、または地下水が飲用されていないことが前提です。汚染地下水が飲用井戸に到達する前に、濃度が基準値以下に低下していることを証明する必要があります。
4. 長期間のモニタリングが可能
自然減衰には5年〜20年以上の期間がかかることがあります。その間、継続的にモニタリング費用を負担でき、土地利用の制約を受け入れられることが条件となります。
モニタリング計画
自然減衰を適用する場合、定期的なモニタリングが義務付けられます。自治体に提出するモニタリング計画には、以下の項目を含める必要があります。
モニタリング項目
- 地下水濃度:汚染物質の濃度測定(年4回程度)
- 地下水位:地下水の流向・流速を把握
- 生物分解指標:溶存酸素、硝酸イオン、鉄イオン、メタン等
- pH・電気伝導度:地下水の化学的性質
モニタリング頻度
一般的には、年4回(四半期ごと)のモニタリングが標準です。ただし、濃度低下が確認され、安定している場合は、自治体と協議して年2回に減らすことも可能です。
モニタリング井戸の配置
汚染プルームの中心、周縁部、下流側に複数のモニタリング井戸を設置し、汚染の拡大がないことを確認します。最低でも3〜5本の井戸が必要です。
自然減衰のモニタリング費用
年間モニタリング費用の内訳
| 項目 | 単価 | 頻度 | 年間費用 |
|---|---|---|---|
| 地下水サンプリング | 3万円/回 | 年4回 | 12万円 |
| 分析費用(3井戸) | 5万円/井戸 | 年4回 | 60万円 |
| 報告書作成 | 10万円/回 | 年1回 | 10万円 |
| 合計 | - | - | 約82万円/年 |
※井戸数、分析項目により変動します。
自然減衰の成功事例
事例1:ガソリンスタンド跡地(ベンゼン汚染)
- 汚染物質:ベンゼン(基準値0.01mg/Lに対し、0.08mg/L検出)
- 対策期間:8年間
- 結果:モニタリング開始から5年目に基準値以下に低下。8年目に区域指定解除。
- 総費用:約640万円(モニタリング費用のみ)
掘削除去であれば2,000万円以上かかるところ、1/3以下のコストで対策完了しました。
事例2:工場跡地(トリクロロエチレン汚染)
- 汚染物質:トリクロロエチレン(基準値0.01mg/Lに対し、0.05mg/L検出)
- 対策期間:12年間
- 結果:嫌気性分解により徐々に濃度低下。12年目に基準値以下となり、継続監視中。
- 総費用:約960万円(モニタリング費用のみ)
自然減衰のデメリット
低コストである一方、以下のデメリットもあります。
- 対策期間が長い:5〜20年以上かかる場合もある
- 土地利用の制約:要措置区域や形質変更時要届出区域に指定されると、土地の利用・売却が制限される
- 確実性がない:自然の浄化能力に依存するため、濃度低下が期待通り進まないリスクがある
- モニタリングコストの累積:期間が長引くほど、総コストが増える
自治体への申請手続き
自然減衰を対策として選択する場合、都道府県に「措置内容計画書」を提出し、承認を得る必要があります。
- 措置内容計画書の作成:自然減衰が有効であることを科学的に証明
- モニタリング計画の策定:測定項目、頻度、井戸配置を記載
- 自治体との協議:計画内容について自治体と協議
- 承認・指定:計画が承認されると、形質変更時要届出区域に指定される
- モニタリング開始:定期的に測定し、結果を自治体に報告
まとめ:自然減衰が適しているケース
自然減衰(MNA)は、以下のケースで特に有効です。
- 対策費用を抑えたい(浄化工事の予算がない)
- 急いで土地を売却・利用する予定がない(長期対策でも問題ない)
- 汚染物質が生物分解可能(石油系、一部の有機塩素系)
- 汚染濃度が比較的低い(基準値の数倍程度)
- 周辺に飲用井戸がない(地下水汚染の拡散リスクが低い)
専門の調査会社に相談し、自然減衰が適用可能かどうか評価してもらいましょう。
関連記事
よくある質問
Q自然減衰はどのくらいの期間かかりますか?
汚染物質の種類と濃度によりますが、5〜20年以上かかることもあります。
Q自然減衰中に土地を利用できますか?
条件によります。直接接触がなく、地下水汚染の拡散防止措置が取られていれば、利用可能な場合があります。